• 日本のコロナ重症者対応が抱える決定的な弱点 医療崩壊の責任は民間病院でなく厚労省にある 上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長  2020/12/27 19:30
    • 欧米と比較して、日本は感染者も重症患者も少ないことがわかる。12月25日現在、人口1000人あたりの感染者数は1.7人だ。アメリカの33分の1、フランスの24分の1、イギリスの19分の1、ドイツの11分の1だ。
    • 日本の医師数はアメリカの96%、フランスの76%、イギリスの89%、ドイツの59%だが、急性期病床数はアメリカの3.2倍、フランスの2.5倍、ドイツの1.3倍もある(イギリスは不明)。慢性期病床も加えた総病床数はさらに多い。
    • コロナ重症者に対して、欧米諸国が、それなりに対応しているのに、数の面で大きく見劣りするわけではない日本の医療がどうして崩壊してしまうのだろう。全体を統括する厚生労働省の方針、運営に問題があると言わざるをえない。
    • ずばり言えば、日本ではコロナ重症者を集中的に診る病院が整備されていないことだ。
      • 中国、アメリカ、イギリスは、一部の施設で集中的に患者を受け入れている。
      • 日本は、都立病院勤務医に聞くと、「1つの病院で受け入れる重症患者は5人程度」という。多くの病院が少数の重症患者を受け入れていることになる。
    • メディアに登場する有識者の中には、民間病院が協力しないので、政府の権限を強化し、強制的に重症患者を受け入れさせるべきだと主張する人もいるが、それは的外れだ。
    • 日本の医療は診療報酬、病床規制、医学部定員規制などを通じて、厚労省が、がんじがらめにしている。小泉政権以降、診療報酬は据え置かれ、開業医と比べて、政治力が弱い病院、特に民間病院は、コロナ感染が拡大したからと言って、病院経営者が柔軟にコロナ重症病床を拡大させる余裕はない。
    • もし、やるとすれば、多数の医師や看護師を抱え、たとえ赤字が出ても、公費で補填される国公立病院(大学病院を含む)か独立行政法人しかない。
    • ​[関連情報]病床数が世界一多く、コロナ感染者が突出して少ない日本で「医療崩壊」が起きている理由 藤 和彦 経済産業研究所
  • 新型コロナで揺らぐ「科学立国ニッポン」の土台 NHKスペシャル「パンデミック 激動の世界」シリーズ 田部康喜 (コラムニスト)2020年12月25日
    • 新型コロナウイルスに関する論文は、世界で約8万本が書かれている。国別のトップ3は、米国と英国、中国である。欧州各国が続き、日本は16位に過ぎない。テーマ別でも「ワクチン」や「免疫」などの主要な分野で、日本の貢献度は低い。
    • 「科学立国ニッポン」の衰退の原因について、番組は「科学研究の司令塔」の不在に迫る。新型コロナウイルスに対するワクチン開発などでリードする、米国の国立衛生研究所(NIH)と、日本のコロナ対策は対照的である。
      • NIHは今回のコロナ対策費として、米政府から最大2000億円の資金配分を任された。ワクチン治験の最終関門でありかつ最もハードルが高い、臨床試験においては、全米で15万人の試験を受けるひとのネットワークをつくって、ワクチン開発者にこたえた。NIH・NIGMS所長のジョン・ローシュさんは、「(NIHは)開発から臨床まで一貫して指導する」という。
      • 日本はどうか。政府はワクチン開発の資金として、5つの研究チームに対して計485億円を配分した。大阪大学寄付講座教授の中神啓徳さんのチームは、110億円の資金を得た。12月初旬に500人を対象にした、臨床実験にこぎつけた。これまでに比べると、異例の早さである。しかし、安全性を確認するには、1万人規模の治験が必要で、その確保は研究チームに委ねられている。そもそも、欧米に比べて感染者が相対的に少ない日本では、大規模な治験は難しい。
    • 大きな問題は、科学研究を担う若手研究者の疲弊である。期限付きの研究者の割合が急速に増加して、若手は安心した研究環境を得るのが困難になっている。
      • 国立大学の40歳未満の教員において、「期限なし(長期雇用)」と「期限付き(短期雇用)」の割合をみると、2007年には、「なし」が61%に対して、「付き」が39%だった。ところが、2019年になると、「なし」が34%、「付き」が66%と大きく逆転している。
    • 番組は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に目を向ける。2011年に設立された大学は世界の大学、研究機関のなかで、影響力のある論文を発表しているベスト100のなかで、東京大学が40位なのに対して、OISTは9位である。世界トップクラスの研究機関と肩を並べている。
      • OISTの特徴は、3つに集約される。第1は、研究期間を短期に縛らない。第2は、研究状態の不断のチェック体制がある。第3は、研究分野を超えた連携である。
      • 研究チェックを担当するのは、プロボス(Provost)と呼ばれる役職である。研究の司令塔役を果たす。研究予算の配分を統括し、進捗状態に応じて資金の追加もする。
        • 「科学とは何度も挑戦して、失敗しなければ答えが得られない。私の役割は、科学者の先輩として助言を行うことです。ただ、上から管理するのではなく、着実に成果に導くような支援が重要なのです」。
 
  • 大前研一氏 Go Toトラベル問題に「感染拡大に税金使うのは日本くらい」 2020年12月24日 7:00 マネーポストWEB
    • 安倍晋三政権および菅義偉政権は緊急経済対策と新型コロナ対策のために、総額57兆6000億円の第一次・第二次補正予算を組んでバラ撒き、さらに菅政権は追加経済対策として第三次補正予算案と2021年度の当初予算案に30兆6000億円を計上する。しかし、トラブル続きの「Go Toトラベル」が新型コロナの第三波を引き起こしたことは明らかだ。感染拡大のために税金を使っている国は、世界中でも日本ぐらいだろう。
      • たとえば、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、飲食店や劇場・映画館、スポーツ施設の営業禁止や集会人数の制限といった全国的な封鎖措置を連邦16州の首相と5時間にわたって話し合い、合意した内容をきちんと文書に残している。
      • かたや菅首相が東京都の小池百合子知事と会談した時間は1回目が15分、2回目が20分でしかなかった。しかも、2回目の会談で決まったのは「Go Toトラベル」の東京発着分について、重症化リスクが高い65歳以上の高齢者と基礎疾患を持っている人に利用自粛を呼び掛ける、という中途半端で理解不能な措置だった。揚げ句の果てに菅首相は「Go Toトラベル」を12月28日から1月11日まで全国一斉に一時停止することを決めた。またしても場当たり的な後手後手のお粗末極まりない対応で、まさに遅きに失している。
    • 100年前は、インフレから世界恐慌、震災被害、企業の倒産と農村の窮乏が深刻化し、失業の山になった。その結果、政府は雇用を創出するために国債を刷りまくって公共事業を拡大。さらに満州事変(1931年)以降、軍部主導の「産学官連携」による軍需産業の拡大に傾斜していった。
    • 今の政府も、税収を超える国債を発行して、「国土強靭化」という名の公共事業や、「なんちゃってデジタル化」を推し進めようとしているが、その“迷走”の行き着く先は、かつてと同じ財政悪化と金融の混乱だろう。また、政府主導の産学連携も推し進めており、このまま放っておくと、100年前の「いつか来た道」に進みかねない。
  • モデルナとはいかなる企業か? ワクチン開発競争が示す、製薬業界の大転換 2020/12/02 ビジネス+IT
    • モデルナの共同創業者はハーバード大学で幹細胞の研究を行っていたデリック・ロッシ(Derrick Rossi)氏。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受けたiPS細胞の研究をもとに、ワクチンとしてより安全で効率的な手法を探った結果が、mRNAの成果に至ったと言われる。この技術を商用化するため、Flagship Ventures(現Flagship Pioneering)から投資を受け、2010年にモデルナの創業に至った。
    • モデルナは、mRNAという新技術に着目した大手製薬会社との共同開発を多く進めている。たとえば、がんワクチンについては、1億2500万ドルを投資したメルク社と、利益分配する提携を行った。他にもアストラゼネカやVertex社と共同開発を行い、3億ドル以上に達する研究開発費の支払いを受けている。
      投資家からの期待も大きく、20億ドル以上の資金を調達した後、2018年にIPO(新規株式公開)を行った。同社の予測では、2021年に5億~10億回分のワクチンが配布される見込みとなっている。ここには、米国への1億回分や、欧州の8000万~1億6000万回分が含まれる。また、日本に対しては、政府と武田薬品工業が協力し、5000万回分の配布が計画されている。
    • モデルナが2020年11月、新型コロナウイルス感染症COVID-19に対するワクチンについて、94.5%の有効性が確認されたと発表した。
    • モデルナと同時期に、米ファイザーと独ビオンテックが開発するワクチンも95%の有効性が確認されたと発表している。
    • 新型コロナの遺伝情報を持ったmRNAワクチンは、無害な形でウイルスのタンパク質を体内に作らせる。人体では、そのウイルスを攻撃する免疫細胞が活性化されるため、この免疫反応により、新型コロナに対する抗体が獲得できる流れだ。
    • mRNAワクチンは、ウイルスの遺伝情報さえ分かれば、その仕組み自体は、どの病気にも対応可能なのだ。
      米国では「ワープスピード作戦」と称し、約100億ドルを使って、ワクチンの開発から量産までを支援する施策を進めており、その一環として、モデルナは米国政府から9億5500万ドルの投資を受けた。
    • ワープスピード作戦の支援先としては、前述のファイザーに加え、アストラゼネカやメルク、ジョンソンエンドジョンソン等が名を連ねている。
    • 同じmRNAワクチンでも、モデルナとファイザーでは相違点がある。具体的には、モデルナの場合、温度変化に弱いmRNAを維持するため、2~8度の冷蔵保存で7日間、6か月の保管にはマイナス20度の環境が必要になる。ファイザーではさらに、マイナス70度の環境を要するので、医療インフラが整わない地域には配布が困難になるリスクが指摘されている。
  • 日本が「ワクチン開発競争に負けた」納得の理由 あまりに鈍感すぎたこの国の感染症対策 2020/11/29 16:00 東洋経済ONLINE
    • ​​米国のファイザーとモデルナ、英国のアストラゼネカとの間で計2億8000万回分の購入について基本合意に達するか、あるいは交渉を進める。その調達のための、6714億円という巨額の支出はあっさり閣議決定された。健康被害の責任は日本側が負うという、海外メーカーの条件も丸のみを強いられた。
    • 国内で開発の先頭を走るバイオ製薬企業アンジェスの創業者、森下竜一は、血管を新生させる因子の遺伝子情報をプラスミドと呼ばれるDNA分子に書き込んで培養したアンジェスの遺伝子治療薬は昨年春、苦労の末、国内初の承認にこぎ着けた。プラスミドに新型コロナの遺伝子情報を書き込んで開発したのが、アンジェスの「DNAワクチン」だ。
    • 世界の開発競争の先頭を走る米バイオ企業モデルナのmRNAワクチンだ。モデルナは生物学者デリック・ロッシが2010年に創業し、14年からワクチン開発に参入した。新型コロナ禍が発生すると、今年3月半ばにはもう臨床試験を開始していた。
    • 「ワープ・スピード」を掲げるトランプ政権の支援は桁違いで、モデルナには保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA)経由で9億5500万ドルの補助金を出し、1億回分を15億2500万ドルで買い取る契約を結んだ。ただ、ここまではコロナ禍が起きてからの支援で、森下が言う「積み上げてきたもの」は別にある。
    • モデルナは、国防総省傘下の防衛先端技術研究計画局(DARPA)。創業3年目の13年の段階で、mRNAワクチン等の開発でDARPAの補助を受けていた。森下は、「mRNAワクチンというのは、軍が関与して開発されてきた『お買い上げ物資』だ。派兵地で感染症が起きたらすぐに兵に接種させる」
    • 森下によればこれらのワクチンでは、抗原タンパク質の遺伝子情報をRNA(リボ核酸)やDNAに組み込んで注射する。細胞内で抗原タンパク質が合成され免疫反応が誘導される仕組みだ。製造過程での感染リスクが低く、遺伝子情報さえ分かれば1カ月前後で開発でき、化学薬品と同じ要領で化学合成を通じて量産できる。ただし投資をすれば、設備には維持管理の経費がかかり始める。
    • 森下が続ける。「企業側も製造工程を一度つくると、流行がない限り赤字で補助金頼みになる。米軍は毎年数千万ドルをこうしたバイオ企業にばらまき、平時から多様な様式のワクチンを確保してきた。臨床試験の第1、2段階くらいまで進めておけばよく、いざパンデミック(世界的大流行)が起きたら、種の近い病原体のワクチンを応用して最短で大量生産・投入できる」
    • モデルナの創業者ロッシは今春、14年以降、現在までに鳥インフルエンザなど7つの感染症のmRNAワクチンで臨床試験に入っているとメディアの取材に答えている。今回の見事なワクチン供給は、科学者の知性の差というより国家の安全保障投資の差なのだ。
    • 冷戦終結で脅威は核から生物化学兵器に移り、ワクチンの重要性が高まった。01年の9・11 同時多発テロ直後には炭疽菌を使ったテロで米国に死者が出た。危機感を強めた米軍は自らワクチン開発への関与を始める。
    • 現実に死地に兵を送り出し感染症のリスクにさらしてきた米国は、丸損になる可能性を踏まえてもなお、準備に資金を投じてきた。戦争を米国に委ねている日本で、政治はこうした備えへの投資を決断できるのか。
    • 日本がワクチン開発で出遅れた理由について国立感染症研究所所長の脇田隆字に問うと、こう答えた。「この20年間を振り返れば、新型コロナを含め繰り返し新興・再興感染症が起きているのに警戒感は維持されなかった。『日本はなんとかなるだろう』と。でも今回の反省があって変わらなかったら、よほど鈍感ということになる」
  • 「知の力」は「お金」を超えただろうか? コロナ禍に見えた新しい世界への道筋 世界経済フォーラム , OFFICIAL COLUMNIST 2020/11/04 07:30 Forbes Japan
    • 「知の力」は、夢物語か?
      • あくまでも相対的にみて、ではあるが、少なくとも初期対応に関する限り、経済的に貧しい国々の方が、経済的に豊かでより優れた医療技術や施設を持つとされていた国々よりも、総じて対策に成功していたのである。
      • それは、彼らが、他国の教訓から真摯に学んだからである。そして、その学びを最大限に生かしながら、貧しさの中、無い無い尽くしの中で工夫を凝らして対処することを厭わなかったからである。
      • 「知の力」そして、それを実践する力が、「お金の力」より重要であることが示されたのである。過去と他者からの学び、そして、それに基づき自らを調整していく力が、強靭な保健システムを構成する最も重要な要素であることがわかる。
    • 情報技術革新の功罪
      • 私たちは、両刃の剣の先に立っている。一方は暗闇。権威主義的体制が、ICTを駆使して強固な監視体制を築き、人々は自由な学びと行動の機会を奪われる。権威は常に正しく、批判は許されない。もう一方には光。ICTがグローバルな学びを加速させる。私たちは、過ちを犯す存在であるが、透明性が確保された社会においては、その過ちが常に進歩の原動力となる。
      • コロナ禍において、明るい兆しは世界の至るところにある。身近なところで、日本の国際協力機関であるJICAが、コンテスト「アフリカのオープンイノベーションへの挑戦」を実施しアイデアを募ったところ、あっという間にたくさんの提案が寄せられた。世界中のいたるところで同様の知の結集が試みられている。
      • GAFAや国際機関、ベンチャーのネットワークが、ハッカソンやオープンイノベーションを企図するなど、多様なアクターによるあらゆる試みが世界各地で始まっている。ワクチンの共同開発と衡平な分配などを目指し、世界の協働を促す「COVAC」や「ACTアクセラレーター」など、未だ課題多しとは言えども、革新的な動きが現実のものとして稼働を始めている。
    • 「新しい世界」の創造に向けて
      • もし、先に挙げたベトナム、ブータン、野口記念医学研究所やケニアの研究所の実践などが、世界中で共有され、それぞれの土地でスケールアップされて実践されたらどうなるであろうか。「小さな成功物語」が、ICTを駆使した、透明で革新的な情報共有のメカニズムに合体することによって、「知の力」が発動され、世界中の人々の健康を守るシステムが強化されていく。
    • 世界経済フォーラムが唱道する「グレート・リセット」あるいは、私なりの言葉で「『新しい世界』の構築」は、そこにおいて現実味を帯びる。